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139 第128話

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「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
石川大学病院の当直室。
その部屋の前にある男に声をかける者があった。
「この部屋の中に対象がいる。」
「俺らはこの対象の身の安全を図る。で、いいですね。」
「定期的に中の様子を見てくれ。もしものこともあるから。」
「自死ですか。」
男は頷く。
「報告関係は富樫のオジキまで。」
「オジキですね。了解。」
男がこの場から姿を消したのを確認して、彼は両手にゴム手袋を装着した。
ノック音
返事が無い。
再度ノック
「光定先生。警察です。」
ドアが開かれる音
「交代でこれからしばらく先生の部屋にいます。何かあれば何なりと申し付けください。」
「…は…はい…。」
「いま一度部屋の中を調べたいのでご協力願います。」
彼はゴム手袋をはめている両手を光定に見せる。
「盗聴器とか付けられていないか一応確認せよとのことですので。」
「あ…はい…。」
部屋に入ると男は即座に鍵をかけた。
「え?」
消音化された銃弾は光定の腹部を穿ち、続いて彼の頭部を撃ち抜いた。
それは全く無駄のない流れるような出来事だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おかしい…出ない…。」
相馬は富樫に電話をかける。
「はい。」
「あ、富樫さん。おかしいんです。」
「何がおかしいんですか。」
「光定、電話に出ないんです。」
「え?相馬さんの電話にですか。」
「はい。何度かかけてるんですが。」
「わかりました。すぐに現場に確認します。」
「お願いします。」
電話をかける富樫
呼び出し音*1
「はい冴木。」
「対象と連絡が取れない。すぐに部屋の中を確認されたし。」
「了解。」
電話を通じて冴木側の音が聞こえる。
ドアをノックする音
光定の名前を呼ぶ声
現場の状況が手に取るようにわかった。
「応答ありません…。」
「中、見てくれ。」
「了解。」
失礼しますと言って冴木は扉を開いた。
「あっ。」
「どうした。」
「…。」
「どうしたんや。」
「…死んでます。」
「…は?」
「腹と頭を打ち抜かれています。」
「え!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イヤホンを押さえていた指をスマホの画面に降ろした佐々木は、それを滑らせる。
「よくやった。」
「ブツは現場近くの便所のタンクの中です。」
「回収は任せろ。」
「お願いします。」
髪を掻き上げた佐々木はエンジンをかけ、車を走らせた。
呼び出し音
「どうした。」
「光定の件、完了しました。冴木が良い仕事をしました。」
「やはりその目に狂いはないな。」
「恐れ入ります。」
「で。」
「はい。専門官には捜一に手を回して頂いて、ブツの回収をお願いしたく。」
「造作もない。任せろ。」
「冴木にはマルトクの継続監視を命じます。」
「こちらも万全の体制で冴木をフォローする。」
「ありがとうございます。」
「ところで。」
「はい。」
「仁川は何か言っていたか。」
「勇介にひとことはありますか。」
「心配いりません。お任せください。」
「恐ろしい男よ。」
「はい。」
「ま、佐々木、おまえも同等に恐ろしいがな。」
「いえ彼が象だとすれば私はそこいらの犬ころです。」
「そこまでか。」
「はい。」
「…。」
「なので専門官。重々お気を付けください。」
「わかっている。」
「では、また報告いたします。」
「長いな…。」
「お待たせしました。なんですか。」
「大丈夫ですか。周り。」
「…大丈夫です。誰も居ません。」
「光定、完了しました。」
「完了…ですか?」
「はい。完了です。」
「…ということは専門官は…。」
「はい。紀伊主任。あなたの申し出を了承しました。」
「あ…あぁ…。」
「どうしました?」
「あ…あの方は…やはり…自分のことを…。」
「信頼なさってますよ。」
「ありがとうございます!」
「あのー感謝の意は私じゃなくて専門官にお願いします。」
「いや、あなたあってこそです!」
「あの、自分は組織の人間として当たり前のことをやっただけです。」
「いやそんなことはない。」
「おべっかはもう良いでしょう。」
「あなたには感謝しきれません。」
「ま、とにかくこれで仲間内の結束力は高まったわけです。紀伊主任、あなたはあなたの役割を特高内で果たしてください。」
「はい。」
「あなたのプロとしての仕事ぶり、期待してますよ。」
「あなたには感謝しきれません…ね。」
きびすを返した片倉はポケットをまさぐった。
あるはずのものが無い。
すれ違う職員のひとりに彼は声をかける。
「わりぃタバコ一本恵んでもらえる?」
「あ、はい…。」
「あなたには感謝しきれません。」
「へ?」
喫煙所への到着を待たずに、彼はそれに火を付けた。
「どうしたらあんなこと言われるようになるんかねぇ…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【Twitter】
https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM
ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。
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「お疲れ様です。」
石川大学病院の当直室。
その部屋の前にある男に声をかける者があった。
「この部屋の中に対象がいる。」
「俺らはこの対象の身の安全を図る。で、いいですね。」
「定期的に中の様子を見てくれ。もしものこともあるから。」
「自死ですか。」
男は頷く。
「報告関係は富樫のオジキまで。」
「オジキですね。了解。」
男がこの場から姿を消したのを確認して、彼は両手にゴム手袋を装着した。
ノック音
返事が無い。
再度ノック
「光定先生。警察です。」
ドアが開かれる音
「交代でこれからしばらく先生の部屋にいます。何かあれば何なりと申し付けください。」
「…は…はい…。」
「いま一度部屋の中を調べたいのでご協力願います。」
彼はゴム手袋をはめている両手を光定に見せる。
「盗聴器とか付けられていないか一応確認せよとのことですので。」
「あ…はい…。」
部屋に入ると男は即座に鍵をかけた。
「え?」
消音化された銃弾は光定の腹部を穿ち、続いて彼の頭部を撃ち抜いた。
それは全く無駄のない流れるような出来事だった。
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「おかしい…出ない…。」
相馬は富樫に電話をかける。
「はい。」
「あ、富樫さん。おかしいんです。」
「何がおかしいんですか。」
「光定、電話に出ないんです。」
「え?相馬さんの電話にですか。」
「はい。何度かかけてるんですが。」
「わかりました。すぐに現場に確認します。」
「お願いします。」
電話をかける富樫
呼び出し音*1
「はい冴木。」
「対象と連絡が取れない。すぐに部屋の中を確認されたし。」
「了解。」
電話を通じて冴木側の音が聞こえる。
ドアをノックする音
光定の名前を呼ぶ声
現場の状況が手に取るようにわかった。
「応答ありません…。」
「中、見てくれ。」
「了解。」
失礼しますと言って冴木は扉を開いた。
「あっ。」
「どうした。」
「…。」
「どうしたんや。」
「…死んでます。」
「…は?」
「腹と頭を打ち抜かれています。」
「え!?」
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イヤホンを押さえていた指をスマホの画面に降ろした佐々木は、それを滑らせる。
「よくやった。」
「ブツは現場近くの便所のタンクの中です。」
「回収は任せろ。」
「お願いします。」
髪を掻き上げた佐々木はエンジンをかけ、車を走らせた。
呼び出し音
「どうした。」
「光定の件、完了しました。冴木が良い仕事をしました。」
「やはりその目に狂いはないな。」
「恐れ入ります。」
「で。」
「はい。専門官には捜一に手を回して頂いて、ブツの回収をお願いしたく。」
「造作もない。任せろ。」
「冴木にはマルトクの継続監視を命じます。」
「こちらも万全の体制で冴木をフォローする。」
「ありがとうございます。」
「ところで。」
「はい。」
「仁川は何か言っていたか。」
「勇介にひとことはありますか。」
「心配いりません。お任せください。」
「恐ろしい男よ。」
「はい。」
「ま、佐々木、おまえも同等に恐ろしいがな。」
「いえ彼が象だとすれば私はそこいらの犬ころです。」
「そこまでか。」
「はい。」
「…。」
「なので専門官。重々お気を付けください。」
「わかっている。」
「では、また報告いたします。」
「長いな…。」
「お待たせしました。なんですか。」
「大丈夫ですか。周り。」
「…大丈夫です。誰も居ません。」
「光定、完了しました。」
「完了…ですか?」
「はい。完了です。」
「…ということは専門官は…。」
「はい。紀伊主任。あなたの申し出を了承しました。」
「あ…あぁ…。」
「どうしました?」
「あ…あの方は…やはり…自分のことを…。」
「信頼なさってますよ。」
「ありがとうございます!」
「あのー感謝の意は私じゃなくて専門官にお願いします。」
「いや、あなたあってこそです!」
「あの、自分は組織の人間として当たり前のことをやっただけです。」
「いやそんなことはない。」
「おべっかはもう良いでしょう。」
「あなたには感謝しきれません。」
「ま、とにかくこれで仲間内の結束力は高まったわけです。紀伊主任、あなたはあなたの役割を特高内で果たしてください。」
「はい。」
「あなたのプロとしての仕事ぶり、期待してますよ。」
「あなたには感謝しきれません…ね。」
きびすを返した片倉はポケットをまさぐった。
あるはずのものが無い。
すれ違う職員のひとりに彼は声をかける。
「わりぃタバコ一本恵んでもらえる?」
「あ、はい…。」
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